"幻覚を見る"という表現
"幻覚を見る"という表現
統合失調症などの精神症状に「幻覚」があります。よく「幻覚を見る」などという表現を見聞きしますが、精神医学マニアの私には少し引っかかります。もし仮にその表現が正しければ、「幻覚を聞く」という表現も正しいことになるからです。
実は、幻覚という言葉は、幻聴なども含んでいるのです。日本の一般人がいう幻覚とは、多くの場合「幻視」のことです。
例:人影や虫が見える
2. 幻聴 (auditory)
例:悪口などの声が聞こえる
3. 幻味 (gustatory)
例:砂や毒のような味を感じる
4. 幻臭 (olfactory)
例:腐った臭いやタバコの臭いを感じる
5. 幻触 (tactile)
例:虫がはっているように感じる
ちなみに、「5Gで電磁波攻撃を受けている」などといった被害妄想が感覚となり、体に異常感が現れる「体感幻覚」もあると言われていますが、私はそれは幻触に分類できるのではないかと考えます。
上述したように、多くの一般人がいう「幻覚を見る」とは、「幻視がある」ということです。
じっさい、医療機関を訪れる患者やその家族は「幻視」という専門用語を知らない場合がほとんどであると思います。研修医がカルテの主訴以外の部分で「幻覚および幻聴」と書いたら怒られますが、患者・家族との面接では専門用語にこだわりすぎず、理解しやすい言葉を使う方が患者は納得するでしょう。正しい表現で面接したければ、幻視を「ないものが見える症状」と表現し、患者が「幻覚があった」と訴えた場合には、その感覚について尋ねればよいのではないのでしょうか。
今回はそれが言いたかっただけです。今後も不定期に医学エッセイを投稿しますので、よろしければブックマークをお願いします。
2025年5月29日